初めてシルクペインティングという言葉を聞いて、シルクスクリーンと混同する人が多いのですが、シルクペインティングはシルクの布に直接、絵を描くという技法です。
一方、シルクスクリーンは印刷の技法、孔版印刷の一種で、木枠や、アルミの枠にメッシュと呼ばれる網目の布を張って、インクが通過する穴と通過しない穴を作って版を作り、一枚づつ刷ります。
ここでは、シルクスクリーン印刷の基本的な工程について説明します。
私の作品では、14点がシルクスクリーン版画としてリリースされています。
全ての版画は、シルクスクリーン版画の印刷工房STUDIO UDONGEさんで制作して頂きました。
シルクスクリーン印刷は、まず枠にメッシュを張りますが、昔は、シルクの布が使われていました。今では耐久性のあるポリエステルやナイロンなど、合成繊維を使うのが一般的です。
印刷業界では、シルクという言葉をもう使わずにスクリーン印刷と呼ぶ機会が増えているそうです。
印刷の工程は以下の順です。
1.作品の大きさに合わせた枠にメッシュを張ります。
2.メッシュに感光乳剤を塗布します。
3.製版したポジフィルムをメッシュの上に置いて感光機や日光で露光させます。露光とは光を当てて、感光させること。感光とは物質が光を受けて、化学反応を起こすことです。
4.光が当たった部分は硬化した乳剤がインクを通さない膜状となります。
5.光が当たらなかった部分、つまり印刷したい部分の乳剤は、水で洗うと 流れ落ちて、インクを通す部分になります。
6.印刷したいもの、紙やTシャツなどの上にスクリーンを置き、スキージでインクを置いて刷ります。
シルクスクリーン印刷の製版とは
最初に、印刷したいイラストなどを、透明なフィルムなどの光を透過するものに、光を通さないインクで描いたり、プリンターやコピー機で印刷します。
これをポジといいます。
製版には感光乳剤をメッシュに塗って、乾燥させ、その上にポジを置いて、一定時間紫外線を当てます。
光が当たらなかった部分の乳剤を水で洗って落とし、その部分にスキージを使ってインクを透過させ、刷ることができます。
一色に一版が必要なので、多色刷りの場合はその色の数だけ版が必要です。
ちなみに、私の版画では、シルクペインティングの濃淡の特徴を生かすため、微妙な色を何色にも分けて、例えばこの作品”ときめき”では、106色、106版という大変な作業をして、刷って頂きました。
実際に工房へ行き作業の様子を見せて頂きましたが、原画を見ながらまず同じ色を作り、色数分の版を作り、一枚一枚刷っていく大変な作業です。
江戸時代の浮世絵版画も、色数の分だけ彫師が版を彫り、摺師が一枚づつ刷り重ねていくという工程は同じですね。
シルクスクリーンの刷り方
版を刷る時は、刷る対象物の上に置いた版の上にインクを置いて、スキージというヘラで刷ります。
スキージを手前に引きながら押し付けていくと、メッシュ孔の部分にインクが落ちて印刷ができます。
この時の力の入れ具合や、角度、道具など様々な条件で仕上がりも変わってきます。
原画を版画に刷る場合は、作者と摺師が納得のいくまで打ち合わせをして、大変な時間と手間をかけて完成します。
原画をもとに一枚づつ刷るのですから、摺師の感性や技術を駆使した作品です。摺師によっても微妙に違ったものになります。
身近にあるシルクスクリーン印刷
スクリーン印刷は、メッシュ孔からインクを押し出すという刷り方なので、対象物は、紙、金属、ガラス、プラスチックなどあらゆるものに印刷できます。
身近で目にするものでは、Tシャツやマグカップ、布バッグなど日常使うものにもたくさんありますね。
様々な種類のメッシュ、感光材、インクを組み合わせ、曲面にも凹凸面にも対応できるので、ガラス、陶磁器などにも印刷が可能です。
昨今では、この技術を利用して、電子機器や電子部品などにも利用されています。
また、シルクスクリーン版画のアーティストと言えば、アンディウォーホルが有名です。キャンベルスープ缶やマリリンモンローなどの作品は誰でも目にしたことがあるかもしれません。
まとめ
シルクスクリーン印刷は、いろいろなものに利用が可能で、水と空気以外、あらゆる素材に印刷することができると言われています。
版画の作成では、手間がかかりますが、現代のデジタルデータを使うジクレー印刷とはまた違って、手作り感があります。そのため価格も高くなります。
実際にお店やギャラリーなどで、版画を見る時の参考になればと思います。
シルクに描く作品の完成まで
この記事へのコメントはありません。